BUSINESS IMPROVEMENT & AI
業務改善・AI活用支援
労務の手続きが遅れる原因は、たいてい手続きそのものではなく、その手前の情報の集め方にあります。同じことを何度も入力している、探すところから始まる、担当者しか分からない。その状態を、記録が残り、担当者以外にも回せる形に組み直します。設計だけでなく、実際に動くところまで作ります。
01まず、工程を分けます
「業務を効率化する」と言っても、業務全体をまとめて速くすることはできません。ひとつの業務を工程に分解して、工程ごとに扱いを決めていきます。
人がやるべき工程と、機械に渡せる工程
たとえば残業の申請と集計という業務は、「申請を受ける」「内容を確認する」「台帳に転記する」「月次で集計する」「上限に近い人を把握する」「認めるかどうか判断する」といった工程に分かれます。
このうち判断が要るのは「確認する」と「認めるかどうか」だけです。残りは機械に渡せます。ところが実際の現場では、転記と集計に時間を取られ、肝心の確認と判断が後回しになっていることが多くあります。
仕分けの3分類
- やめる:誰も見ていない集計表、二重に作っている帳票、目的を説明できない作業
- まとめる:同じ情報を複数の場所に入れているものを、1か所に集約する
- 自動化する:転記、集計、締切前の通知など、判断を伴わない工程
この順番が重要です。やめられる作業を自動化しても、無駄が速くなるだけです。減らしてから、残ったものを自動化します。
減らす前に、まず見えるようにします
最初にやるのは、業務の流れを一枚の図にすることです。誰が・いつ・何を受け取って・何を出しているかを書き出します。
この作業だけで、社長と担当者の認識が食い違っていることが分かる場合があります。「その確認、実は誰も見ていません」「その表は3年前にやめた運用の名残です」といった発見が出てきます。図にする過程そのものが、棚卸しになります。
この時点で「手を入れない方がいい」とお伝えすることもあります。月に1時間しかかかっていない作業を自動化しても、費用に見合いません。効果が出るのは、頻度が高く、人数分繰り返され、締切のある業務です。
02手を入れる業務
従業員5人から30人ほどの会社で、実際に効果が出やすい6つの領域です。すべてに一度に手を入れるわけではなく、いちばん効くものから順に進めます。
A勤怠の記録と集計
- 紙のタイムカードを月末に回収
- 担当者がExcelに手で転記
- 集計と突き合わせで半日以上
- 上限に近い人が締めてから判明
- スマホやICカードで打刻
- 記録が自動で台帳に入る
- 集計は締め日に確認するだけ
- 月45時間に近づいた時点で通知
労務上の効き目:労働時間は客観的な方法で把握することが求められています(労働安全衛生法第66条の8の3、労働安全衛生規則第52条の7の3、および「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」平成29年1月20日)。打刻データがそのまま集計に流れる形にすれば、この要件を満たしながら作業も減ります。
Bシフトの収集と調整
- 希望がLINE個別・電話・口頭で届く
- 担当者が表に手入力
- 変更のたびに作り直し
- 「言った・聞いていない」が起きる
- LINEの決まった入口から希望を提出
- 希望が自動で一覧に集まる
- 確定シフトを各自へ個別配信
- いつ誰が何を出したか記録が残る
提出のリマインドも自動で送れます。締切前に催促の連絡をして回る作業がなくなります。
C入社・退社の手続き
- 紙で記入してもらい、後日回収
- 不備があれば取りに戻る
- 同じ情報を書類ごとに転記
- 提出期限を過ぎてから気づく
- 入社前にオンラインで一度だけ入力
- 必須項目が空なら送信できない
- 台帳に反映され、各書類へ流し込み
- 期限の管理も自動で通知
入社手続きは、1人あたりの作業がまとまって発生するため、効果が数字で見えやすい領域です。採用が続く時期ほど差が出ます。
マイナンバーは別扱いにします。特定個人情報は番号法で利用・保管の範囲が厳しく限定されているため、他の情報と同じ流れに混ぜません。回収経路と保管場所を分けて設計します。
D有給休暇の申請と残日数管理
- 紙の申請書を上長へ提出
- 残日数を担当者が都度計算
- 基準日が人ごとに違い追えない
- 年5日の未達に年度末に気づく
- LINEから申請、上長が承認
- 残日数が自動で更新される
- 管理簿が自動で出来上がる
- 未達の人を随時抽出して通知
労務上の効き目:年次有給休暇管理簿の作成と保存は義務です(労働基準法施行規則第24条の7)。また年5日の取得義務違反は労働者1人につき1罪として扱われます(労働基準法第39条第7項、第120条第1号)。手作業での管理は、人数が増えるほど抜けが出ます。
E社内連絡と周知
- 朝礼と掲示板で伝える
- 休みの人、直行直帰の人に届かない
- 伝えたかどうかの記録が残らない
- LINEで全員に配信
- 確認ボタンで到達を把握
- 誰がいつ確認したかが残る
労務上の効き目:就業規則は労働者に周知しなければ効力の面で問題が生じます(労働基準法第106条)。規程を変えたときに「全員に届いた」記録が残る形にしておくと、後から争われたときの説明がしやすくなります。
F従業員からの問い合わせ対応
- 同じ質問が毎月届く
- 担当者が都度、口頭で回答
- 回答内容が人によってぶれる
- よくある質問はLINEの自動応答へ
- 回答が統一され、記録も残る
- 個別判断が要るものだけ人へ
「有給はあと何日ですか」「年末調整の書類はいつまでですか」といった定型の問い合わせは、自動応答で十分に処理できます。担当者は判断が要るものだけに向き合えます。
03使う道具
新しいシステムを買うことを前提にしません。まず、いま社内にある道具の範囲で組めるかを考えます。
| LINE公式アカウント | 従業員がすでに使っているため、新しく覚えることがほとんどありません。申請、シフト希望の提出、社内連絡、自動応答の入口として使います。拡張ツールを併用すると、個別の配信や条件分岐まで組めます。 |
|---|---|
| Googleスプレッドシート | 台帳として使います。専用システムと違い、担当者が自分で列を足したり、集計方法を直したりできます。あとから社内で手直しできることを重視しています。 |
| GAS (Google Apps Script) |
LINEとスプレッドシートをつなぐ部分に使います。通知、集計、書類の生成などを担当します。追加費用がかからないのが利点です。 |
| 生成AI | 文書の下書き、要約、社内向けの言い換えなどに使います。詳しくは次のセクションで説明します。 |
| 既存の勤怠・給与ソフト | すでに導入済みのものは、原則として置き換えません。使えていない機能を使える形にするか、前後の工程をつないで活かします。 |
道具ありきでは考えません。先に業務の流れを決め、それを実現するのに必要な道具を選びます。新しいシステムの購入が本当に必要な場合だけ、費用と併せてご提案します。
04AI活用支援
「使ってはいけない」と決めるだけでは、結局は隠れて使われます。使ってよい範囲と入れてよい情報を決めて、見える形で運用するほうが安全です。
向く業務と、向かない業務
| 向いている |
社内通知文・案内文の下書き(健康診断の案内、年末調整の依頼文など) 就業規則や社内規程を、従業員向けの言葉に言い換える 面談記録や議事メモの要約と整理 手順書・マニュアルのたたき台づくり 長い資料から必要な箇所を探す |
|---|---|
| 向いていない |
解雇・懲戒・休職の可否など、最終判断を要する場面 法令の条文解釈をそのまま結論として使うこと 給与計算など、正確な数値が求められる処理 個人が特定される情報を扱う作業 |
AIの回答には、古い法令や存在しない条文が混ざることがあります。下書きはAI、確認は人という分担を崩さないことが前提です。
入力してよい情報・だめな情報
ここが実務でいちばん問題になります。禁止する情報を具体的に決めて、1枚の紙にしておきます。
| 入れない | 従業員の氏名・住所・生年月日・連絡先 マイナンバー(特定個人情報) 給与額、賞与額、口座情報 健康情報(健診結果、診断書、病歴、休職の理由) 取引先の担当者名や機密情報 |
|---|---|
| 加工すれば可 | 氏名を「Aさん」に置き換える 金額や日付を丸める、ぼかす 会社名・部署名を伏せる |
| 問題なし | 個人が特定されない一般的な相談 公開されている法令・通達の文章 自社で作った文書の言い換えや要約(個人情報を含まないもの) |
根拠と背景:個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。また、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが機械学習に利用される場合には、個人情報保護法違反となる可能性があるとしています(「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」令和5年6月2日)。健康情報や病歴は要配慮個人情報にあたり、取得そのものに本人の同意が必要です(個人情報保護法第20条第2項)。
設定でリスクを下げられます。入力したデータを学習に使わない設定になっている法人向けプランを選ぶ、業務で使うサービスを1つに絞る、といった手当てを先にしておきます。どのサービスを使うかを会社が決めていない状態が、いちばん危険です。
作るもの ── AI利用ルール1枚
分厚い規程は誰も読みません。次の4点を決めた1枚があれば、実務は回ります。
- 使ってよいサービス:会社が指定したものだけを使う
- 入力してよい情報・だめな情報:上の表をそのまま社内向けに落とし込む
- 使ってよい業務:下書き・要約・言い換えなど、具体的に列挙する
- 最終確認者:外部に出す文書、法令に関わる判断は誰が確認するかを決める
作ったあと、全員に配って一度説明します。そこまでを支援します。
法制度の状況:日本では「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI推進法)が2025年6月4日に公布され、同年9月1日に全面施行されました。事業者に関わるのは第7条の活用事業者の責務ですが、内容は努力義務であり罰則はありません。したがって現時点で企業が実務上気をつけるべきは、AI固有の法律よりも個人情報保護法と番号法の側です。
05労務ならではの注意点
効率だけで決めると法令に触れ、法令だけを見ていると現場が回りません。仕組みを作るときに、必ず確認している点です。
01 記録が「客観的」といえるか
自己申告だけの仕組みは、労働時間の把握方法として原則から外れます。打刻データなど、あとから第三者が確認できる記録が残る形にします。修正した場合は、誰がいつ何を直したかの履歴も残します。
02 保存年限を満たせるか
労働者名簿、賃金台帳、出勤簿などの重要書類は5年間(当分の間3年間)の保存が必要です(労働基準法第109条、附則第143条第3項)。クラウド上のデータで代える場合、契約終了後にデータが消える設計になっていないかを確認します。年次有給休暇管理簿、健康診断個人票にもそれぞれ保存年限があります。
03 就業規則と食い違わないか
システムの設定は、就業規則の内容そのものです。所定労働時間、休憩の与え方、打刻の丸め処理、固定残業代に含まれる時間数、有給の付与基準日──これらが規則と違う設定になっていれば、その仕組みは毎日違反を積み上げることになります。設定前に、規則の内容を必ず確認します。
04 誰がその情報を見られるか
スプレッドシートで台帳を作ると、共有範囲の設定を誤って全員が全員の給与を見られる状態になることがあります。個人データの安全管理措置は事業者の義務です(個人情報保護法第23条)。アクセス権限は、業務上必要な人だけに絞って設計します。
これが社会保険労務士が業務改善に入る意味です。システム会社は仕組みを作れますが、就業規則との整合や保存年限までは見ません。コンサルは業務は見ますが、実装まではしません。両方をひとりで見られることが、この事務所の位置づけです。
06進め方と期間の目安
対象業務がひとつの場合で、着手から引き継ぎまで2か月から3か月程度が目安です。業務の数と、社内で情報を集めるのにかかる時間によって前後します。
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労務相談として現状をうかがう(必須)
いま何に時間がかかっているかを聞かせてください。スポットの労務相談としてお受けします。この時点で「手を入れない方がいい」とお伝えすることもあります。
目安:3時間まで/50,000円(税別) -
業務の流れを図にして、見積書を出す
現状の工程と手の入れどころを一枚の図にまとめ、作業範囲を確定したうえで見積書を提示します。労務相談のあと、ここまでの追加費用はかかりません。金額にご納得いただいてから着手します。
目安:2〜3週間/追加費用なし -
就業規則と現行ルールを突き合わせる
仕組みに落とし込む前に、いまの運用が規則の内容と合っているかを確認します。食い違いが見つかった場合は、どちらを直すべきかをお伝えします。
目安:1〜2週間 -
ひとつの業務で作って、試す
いちばん効果の出やすい業務を選び、実際に動くところまで作ります。1〜2か月は現行の運用と並走させ、結果を突き合わせてから切り替えます。合わなければ直します。
目安:1〜2か月 -
引き継いで、運用に乗せる
手順書と操作方法をお渡しし、担当者の方に引き継ぎます。担当者が自分で直せる範囲で組んでいるため、こちらに依存し続ける形にはなりません。その後の修正や法改正への対応は、システム変更・保守(月額)として承ります。
目安:1〜2回の引き継ぎ
07よくあるご質問
ITに詳しい社員がいませんが、大丈夫でしょうか。
問題ありません。むしろ、詳しい人がいない前提で組みます。従業員の方が触れるのは、普段使っているLINEの画面だけという形にします。
管理する側も、スプレッドシートが開ければ十分な範囲に収めます。専用システムのように「その画面でしかできない」状態を避けているのは、このためです。
いま使っている勤怠システムを入れ替える必要がありますか。
原則として入れ替えません。まず、いまのシステムで使えていない機能がないかを確認します。多くの場合、機能はあるのに設定されていない、または使い方が伝わっていないだけです。
本当に足りない部分があれば、前後の工程をつないで補います。入れ替えを提案するのは、それでも解決しない場合だけです。
どのくらいで効果が出ますか。
効果が出やすいのは、頻度が高く、人数分繰り返され、締切のある業務です。勤怠の集計や入社手続きはこれに当たるため、切り替えた最初の月から作業時間の差が出ます。
一方で、年に数回しか発生しない業務は、自動化しても回収に時間がかかります。最初のヒアリングで、どの業務なら見合うかをお伝えします。数字が見合わなければ、そう申し上げます。
従業員が新しいやり方に反発しないか心配です。
やり方が変わること自体より、「なぜ変わるのか分からない」ことに反発が出ます。導入前に、何が楽になるのかを従業員向けの言葉で説明する資料を用意します。
また、いきなり全社に広げず、ひとつの業務で試してから広げる進め方をとっています。先に使った人が「前より楽だ」と言う状態を作るほうが、説明を重ねるより早く定着します。
作ったあと、こちらで直せなくなりませんか。
そうならないよう、担当者が手を入れられる範囲で組むことを方針にしています。台帳はスプレッドシートで、処理の内容は手順書に日本語で残します。
それでも手に負えない修正や、新しい業務を追加したい場合は、システム変更・保守で対応します。ただし、こちらに依存し続けなければ回らない形は、最初から作りません。
AIの導入だけをお願いすることはできますか。
できますが、多くの場合は業務の棚卸しから始めることになります。「どの業務にAIを使うか」を決めるには、そもそもどんな業務があるかを並べる必要があるためです。
AI利用ルールの作成だけをご希望の場合は、範囲を確認したうえでお見積りします。まずはご相談ください。
まずは、お困りの内容を
ひとことお送りください。
どこから手をつけるべきか決まっていない段階でも大丈夫です。お問い合せフォームから会社名とお困りの業務をお送りいただければ、折り返し、スポットの労務相談の日程と進め方をご案内します。ご案内までは無料です。その場で契約をお願いすることはありません。
お問い合せどのご依頼も、まず労務相談(スポット・有料)から始めます。料金は3時間まで50,000円、3時間を超える場合は1時間ごとに10,000円(いずれも税別)です。
LAST UPDATED : 2026.11.06
本ページに記載した法令の内容は、掲載時点のものです。法令の改正により内容が変わることがあります。個別の事案については、前提となる事実関係により結論が異なります。
当事務所がお引き受けしているのは、業務プロセスの改善・効率化の設計と実装(引き継ぎ後のシステム変更・保守を含む)、AI活用の導入支援、労務相談の3つです。業務の設計・実装に体制を集中しているため、就業規則の作成・改定や、社会保険・労働保険の手続き代行は十分な品質でお応えすることが難しく、対応している社会保険労務士をご紹介しています(紹介手数料はいただきません)。主な対応エリアは京都府内です。
坪倉社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 坪倉 聖二郎
